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【谷尾昂也】得点感覚を取り戻した嗅覚型オールラウンダー、9年目の回答

【谷尾昂也】得点感覚を取り戻した嗅覚型オールラウンダー、9年目の回答

 「自分らしくないゴールでした」2019年J3リーグ開幕戦で得点を決めたヴァンラーレ八戸FW谷尾昂也は試合後につぶやいた。
 高校時代の活躍から、無名ではありながらもJ1川崎フロンターレへプロ入りした谷尾は、キャリア9年目にしてようやくたどり着いたJ初得点。今季八戸での活躍は決してフロックではない。中村憲剛とのホットラインを望まれた男は「感覚を取り戻して」Jの舞台へ帰ってきた。

インターハイ得点王の経験

 1992年5月29日、鳥取県鳥取市に誕生した谷尾昂也は、地元の小学校中学校を経て鳥取の強豪米子北高校へ進学する。高校2年時には夏のインターハイに出場し、6得点をあげて得点王に輝くなど生粋の点取り屋として名を馳せた。しかし、彼の生まれた”1992年”はFW宇佐美貴史(現ガンバ大阪)やMF柴崎岳(現デポルティーボ・ラ・コルーニャ/スペイン2部)など、ゴールデンエイジ世代を凌ぐ”プラチナ世代”と形容されるほどタレントの多い世代でもあった。さらに、高校プレミア・プリンスリーグ等も発足してユースが一気に台頭。ポッと出てきたばかりのFWに年代別代表の招集はかからなかった。
 高校の同期にはCB昌子源(現トゥールーズ/フランス)がおり、攻守で生粋のタレントとして2010年度を戦うも、前年決勝まで進出したインターハイではベスト8(鹿島学園、流通経済大柏を倒すも、西武台に敗れる)で敗れ、優勝候補とまで呼ばれた冬の選手権では、後に川崎フロンターレで同期となるMF大島僚太擁する静岡学園相手に初戦敗退となった。

鄭大世と比較された逸材

 選手権の敗戦から1ヶ月、谷尾は神奈川県にいた。川崎フロンターレの新体制発表会に出席するためである。MF山瀬功治(現愛媛FC)やMF柴崎晃誠(現サンフレッチェ広島)らに加え、高卒新人としてMF大島僚太(静岡学園)、DF福森晃斗(桐光学園:現北海道コンサドーレ札幌)と壇上に上がった。
 世代別代表経験があるわけでもない。インターハイ得点王とはいえ、全国的に名が知れた存在でもなかった「谷尾昂也」を川崎フロンターレが獲得したことは一つの衝撃だった。しかし、同年冬FW鄭大世(現清水エスパルス)がドイツ・ブンデスリーガ2部のボーフムへ移籍したこともあり、ドリブルやパス、ヘディングといった武器以上に、『誰も教えることの出来ない得点感覚』をもった選手の獲得に動いたのだった。
 当時の川崎フロンターレは、MF中村憲剛からFW鄭大世へつなげるホットラインが機能していた。獲得意図も自身のパフォーマンスも理解していたことは谷尾自身も理解しており、「自分より足が速くて強い選手はいると思うので、この時期にしっかりと鍛えたいです。練習でしっかりコミュニケーションをとって、パスを呼び込めるようにしたい。いつか“ホットライン”と言われるようにしたい」と語っていた。

活かせなかったFWとしての能力値

 期待を寄せられるも、リーグ戦で声がかかることはなかった。大島や福森は徐々に試合出場を果たすも、声がかかることはなかった。プロ3年目(2013年)の夏、当時J2のガイナーレ鳥取へ移籍し、プロ初出場を経験するも、チームはJ3へ降格。翌2014年に地元でもある鳥取に完全移籍したが、得点を生み出すことは出来ず、半年で関東一部リーグのVONDS市原へ移籍することとなった。J1クラブに認められた逸材のプロ人生は1得点も果たすことなく一度、終焉することとなってしまう。

Jリーグ復帰へ、取り戻した得点感覚

 2014年夏、関東一部リーグのピッチに降り立ったかつて高校年代屈指の点取り屋には、得点の香りが消えていた。それもそのはず、公式戦における得点は、2010年11月に行われた選手権予選鳥取県決勝の試合まで遡るのだ。ただ、この移籍は大きかった。
 VONDSでの挑戦こそ、7試合1得点と大きな成果を残したわけではない。それでも、プロ入り後初めての得点をあげた。そしてその後、
2015年中国一部松江シティ:18試合12得点
2016年北信越一部サウルコス福井:10試合6得点
と結果を残し、2017年にJFLを戦うヴァンラーレ八戸へ移籍を果たす。2017年は21試合4得点も、2018年は24試合10得点でJ3昇格に貢献。鳥取を離れて4年半をかけ、J3へと戻ってきた。

ヴァンラーレ八戸史に残る初得点

 Jリーグ参入1年目にして初戦となったガンバ大阪U23チームとの一戦で貴重な勝ち点1を獲得し、チーム史に残り続けるJ参入初得点を記録した点取り屋は謙虚に振り返った。「前半は自分個人のことですが、とんでもない立ち上がりだったので、そこを後半はうまく修正して点も取れましたし、最後勝ち切れなかったのは悔しいところです」さらに、「(1点目のシーンを振り返ると)相手のパスミスをかっさらってそのままドリブルで運んで自分の得意な形だったんですけど、うまく一枚はがせたので、シュートを落ち着いて決めるだけでした。自分らしくないゴールでした。(決めたときの心境は?)やっと追いついたので、もう1点次行こうという感じでした」

子供の頃に憧れたスーパースター

 J初得点に加え、J参入後ホーム初勝利となった12節のいわてグルージャ盛岡戦でも得点を決めたが、ピックアップしたいのはホーム初勝ち点となった5節のガイナーレ鳥取戦でも得点を決めた。八戸所属以前にプロとして所属した鳥取相手にゴールを決めたことは数年間の成長を表していた。
 7/28のYSCC横浜戦、8/4のガンバ大阪U23戦を終えると、8/10にはかつて在籍したガイナーレ鳥取のホームでの一戦が待ち構える。また、同週ミッドウィークに控える天皇杯3回戦「ジュビロ磐田」戦に勝利することができれば、プロのスタート地点である川崎フロンターレとの試合になる可能性がある。中学時代に熱望したプロの形ではないかも知れない。それでも願って努力してチームに貢献し続ける姿は、現世における新たなスーパースターの形かもしれない。

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