2019年明治安田生命J1リーグは12月7日を以って全日程を終了し、横浜F・マリノスが15年ぶりの優勝を果たした。昨年よりアンジェ・ポステコグルー氏が就任したチームは、アタッキングフットボールと呼ばれる超攻撃的サッカーに変貌し、大きな話題となった。1年目は理想先行で残留争いとなったが、2年目の今季は、ピンポイント補強やバージョンアップされた戦術を駆使して観る者全てを魅了するフットボールを披露した。今回は15年ぶりのJ1リーグ優勝を成し遂げるチームになった横浜FMの強さの要因とは何か、3つの観点から探っていきたい。
複数のゴールゲッターの存在が優勝争いのファクターに
優勝争いをする上で「フィニッシュポイント」が複数存在することは戦術の幅を広げる。最終節まで優勝を争ったFC東京は、FWディエゴ・オリヴェイラとFW永井謙佑の2トップで23得点あげたように、横浜FMの場合はFW仲川輝人とFWマルコス・ジュニオールが互いに15得点をあげて得点王争いを繰り広げた。負傷離脱した第20節ヴィッセル神戸戦(A)まで得点王を争っていたFWエジガル・ジュニオ11得点、夏に加入FWエリキは12試合で8得点決めるなど、双方ともフルシーズン換算では得点王争いに加わっても遜色ない出来を披露した。先述した4人でチーム全体の72.06%のゴールをあげたことになる。
序盤戦は仲川輝人、エジカルジュニオ、マルコス・ジュニオールの3トップが鉄板だった。マルコス・ジュニオールは得点もアシストもできることからポジションをトップ下へとポジションチェンジし、左サイドにFW遠藤渓太が入る形へと進化した。遠藤渓太は33試合出場7得点とシーズンハイを更新。ほぼ全試合で起用されながら、今季初ゴールが第19節浦和レッズ戦と時間を要したものの、切れ味のあるドリブルで敵陣を脅かし、効果は抜群だった。終盤戦ではFWマテウスにレギュラーポジションを譲ったものの、終盤戦は切り札としての役割から攻撃を活性化させた。 得点とアシストの双方の役回りをこなせる選手が多かったこと、ズバ抜けて1人が点を取るのではなく複数選手で多くのゴールを決めることが功を奏して、ダブル得点王が誕生した。
抜かりないスカッドの充実度
昨年冬のオフ、クラブを長年支えてきたCB中澤佑二が現役を引退した。さらに、MF中町公祐やFW伊藤翔、FWウーゴ・ヴィエイラなどのエリック・モンバエルツ前体制下で。主力を務めた選手がチームを去ると、一気にポステコグルー体制の色を濃くした。シティ・フットボール・グループの盤石なスカウト網も活用し、自分たちのサッカーに適した人材を的確に揃えた。
ポゼッションの起点として昨季のJ3を制したFC琉球からGKパク・イルギュ、偽SB戦術のキーマン山中亮輔が浦和レッズに移籍した穴をムアントン・ユナイテッド(タイ1部)からLSBティーラトン、J2徳島ヴォルティスで同系統のサッカーを経験してきたRSB広瀬陸斗、ゲームメーカーの役割を一任できるMF三好康児、そして攻撃の柱としてFWエジカルジュニオ、FWマルコス・ジュニオールを獲得した。
補強は全て当たり開幕ダッシュに成功。同ポジションに同じ力量の選手を揃えることでチーム内の争いも激化した。選手の特徴を活かしながらやり繰りして完成度を高め、勝利に結び付ける好循環を作った。
夏の移籍市場では、司令塔のMF天野純がロケレン(ベルギー2部)に移籍。また、コパアメリカで日本代表に選出され、ウルグアイ戦で2ゴールの活躍をしたMF三好康児が帰国後、欧州へ思いを馳せて川崎フロンターレからのレンタル移籍を解除してロイヤル・アントワープ(ベルギー1部)へ移籍、さらにはFWエジカルジュニオが長期離脱したことから攻撃陣補強が必須となった。
キーマンの最先鋒は、FWエリキ。ボタフォゴ(ブラジル1部セリエA)から本職がウィングながら前線ならどこでもできる。さらに、大宮アルディージャから名古屋グランパスにステップアップを果たすも、適応せずに燻っていた個で打開できるドリブラーのFWマテウス。攻守両面でハードワークして橋渡し役を担えるMF渡辺皓太は、昨夏の畠中槙之輔同様、東京ヴェルディからの獲得ルートとなる。また水戸ホーリーホックからCB伊藤槙人、サイドアタッカーMF泉澤仁らも手厚く揃えることに成功した。 このように、アタッキングフットボールに適した人材を各方面から厳選し、獲得する。その選手が即座に適応していることから、小倉勉スポーツダイレクターをはじめとするフロント側と、現場の思想が一致していることは大きい。スカウト網フル活用による取り組みは、CFGとしても事業の成功と言えるのではないか。
各部門で他を凌駕した試合スタッツ
Yahoo! が提供するスポーツナビのスマホアプリでは、ボール支配率、シュート数、枠内シュート数、パス本数、パス成功率、スプリント数などのスタッツをチームや選手別に確認することが可能だ。マリノスのスタッツを部門別に集計した結果をご紹介したい。
まずはボール支配率だ。横浜FMはJ1チームで唯一60%を超えて(61.4%)おり、パス数は639.7本、成功率85.1%を記録した。パス数600本超・成功率85%超を共にクリアしたの横浜FMと大分トリニータだけであり、いかにオーガナイズできていたかがわかる。これら指標に近似したクラブを世界で比肩しても、バルセロナやマンチェスター・シティなど、リーグに1クラブあるか否かだ。
次に走行距離とスプリント回数だ。本来、この2項目はポゼッションサッカーを志向するチームにとって高数値のでにくいものだ。 カウンターやハードワーク型チームに高い数値が現れる。しかし、この部門でも1位に輝いたのは横浜FMだった。チーム全体の一試合平均において、走行距離116.5km(リーグ平均112.1km)、スプリント回数193回(リーグ平均160.8回)の数字を叩き出した。スプリント回数2位のFC東京が176.9回であり、如何に試合内のスピードに溢れていたか、歴然とした差が現れている。
その他にもシュート決定率は38.4%、先制時には20勝1分2敗の成績を残すなど、90%近い勝率を叩き出した。 アタッキングフットボールの名の通り、各部門で圧倒的な数字を達成できたのは高度な戦術を実践するにあたって選手の理解度の高さや選手個々が何かしらに秀でた能力が発揮されたこと、植えつけてきたトレーニングの成果、それを裏で分析するスタッフの賜物と言える